株式会社 タイプバンク
それでは、一組のデザイン、7000字〜8000字にどんな要素があるのかということを、タイプバンクのCIDフォントを例に説明します(図2-1)。
日本語書体には、漢字、ひらがな・カタカナ(拗促音含む)、数字・欧文(大文字・小文字)、記号類などがあります。そういった異なる要素を持つ文字を、どのようにひとつの文字セットとして作っていくかということが大切になります。
図2-1 タイプバンクのCID文字セットより
CID(Character IDentified-keyed)フォントは、OCF(Original Composit Format)に代わるポストスクリプトフォントの新しいフォーマット形式です。画面表示や印刷速度の向上、ファイルサイズの縮小といった利点があります。また、欧文だけを使用する言語に対して、漢字などたくさんの文字を扱うアジアの言語をもサポートできるファイル構造になり、異体字切り替えなど新しい機能が追加されました。
漢字
図2-1に漢字の例として縦横線の本数の違う「国」という字と「轟」という字があります。画数の違いによって線の太さを細かく調節して、それぞれの文字の黒味を統一していく必要があります。画数と線の太さの関係を図2-2でより詳しく説明しています。
また森鴎外の「鴎」という字の新字と旧字が並んでいます。これらはCIDの異体字切換で使用できるようになっています。このふたつの文字のつくりの形状は同じですが、バランスのよい文字を作るなら、偏の密度によって偏の幅というのは異なりますし、その幅の違いによる黒味の調節もしていかなければなりません。 実際、2字の「鳥」というつくりを比べると、新字のほうの「鳥」というのは旧字のほうの「鳥」に比べて幅が広いことがわかります。それによって黒味も同じに見えるように調節してあります。そういった細かい調整をしなければ、バランスのとれたひとつのよい文字にはなりません。
ひらがな・カタカナ
ここにかなの例として形状の性質の異なるものが並べてあります。
ひらがなの「の」などのように、正円に近い形状のものもありますし、「つ」などのように横長の形状のもの、「く」などのように縦長の形状のものもあります。こういった違った形状を持っている文字のふところ具合をどう考えていくかということも大事です。また、形状による大きさの調整もしていかなければなりません。
ひらがなの「あ」が丸い形状をしているのに対し、カタカナの「ア」は逆三角形、「ム」は三角形、「ネ」は菱形、「ロ」は四角形の形状を持っています。こういったもの全部を枠いっぱいにデザインしてしまっては、四角い形状のものは他のものより、かなり大きく見えてしまいます。逆に菱形や三角形の形状のものは、他の文字とのバランスを見ながら大きさを決めないと、小さく見えてしまいがちです。
また、ひらがな、カタカナには、濁点、半濁点を持つものがあります。その位置や大きさをどういうふうにしていくかということも考えなければいけません。拗促音には、縦組用、横組用があります。実際に組んだときにどう使われるかを考え、組んだときにいい大きさや位置を決めていかなければなりません。
欧文・数字・記号
CIDの日本語書体セットには2種類の欧文・数字・記号が存在します。現在、マッキントッシュで使用される書体の多くは、英数モードで入力されるものはプロポーショナル欧文、かなモードで入力されるものは2バイト欧文と呼ばれています。プロポーショナル欧文は、名前のとおり、それぞれの文字の形に合わせた文字幅を持っているので、英語の長文、横組の和欧混植に使用されます。それに対して2バイト欧文は、漢字、かなと同様、全角の文字幅を持っているので、記号的に使いたいとき、縦組みで中心を揃えて使いたいときに便利です。
タイプバンク書体のプロポーショナルの数字は0から9まで一定の送り幅に揃えてあります。その結果、表組など上下に位置を揃えたいときにも適して作られています。
記号類のクエスチョンマーク、パーレンなども、2バイト欧文の記号類は日本語を組んだときに使われるものですし、プロポーショナル欧文の記号類は、欧文を組んだときに使われるものです。つまり、その使用される用途に応じて、その大きさや位置などを考慮したデザインが必要です。
図2-2 画数と線の太さ
横線の画数の少ない文字順に縦並び、縦線の画数の少ない文字順に横並びに並べてあります。
ここで使用しているタイプバンクゴシックBは、黒味の錯視調整をきちんとしているので、画数の密度にかかわらず、同じ黒味を持った文字に見えると思います。「書」という字と「軸」という字を拡大してみると、「書」の縦線、「軸」の車へんの縦線は、中の黒味が集まる部分の太さが少しすいてあります。また、「書」の日の横線、「軸」の車偏の中の横線も、まわりの横線に比べて少し細目にすいてあります。
では、そういった調整をしないとどうなるかというのが下の悪い例です。この悪い例は太さの調整を何もせずに縦横線をそれぞれ均一の太さに揃えてあります。例えば「十」という文字を見てください。下のタイプバンクゴシックBに比べると、ずいぶん細く見えることがわかります。また直が三つ並んだ文字や、魚へんの文字は画数が多いので、同じ太さに作ってしまうとつぶれてしまいます。このようにきちんと一字一字の黒味を調整しないと、一つの文字セットとしては読みづらいものになってしまいます。
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